連載企画
LET’S DISCOVER THE SECRET OF A GOOD SMILE!
ー笑顔のヒミツを解き明かそう!ー
「ねんどろいど」をはじめとしたフィギュアの企画開発をはじめ、ゲーム開発やアニメーション製作などにおいて数々のヒット商品を生み出してきたグッドスマイルカンパニー(以下、グッスマ)が、2021年5月に設立20周年を迎えようとしている。多くのアニメ/ゲーム作品、ポップアイコンたちとタッグを組みながら国内外のポップカルチャーに大きな影響を与えてきたグッスマとはどのような歴史を歩んできたのか。グッスマの”これまで”を彩ってきたコンテンツと、そこに携わってきたスタッフの証言をもとに、20年の歴史を紐解いていこう。今回は同人ゲームからスタートし、膨大な二次創作とともに巨大コンテンツに成長した「東方Project」とグッスマの関係を紐解いていくーー。
10年以上続く、東方Projectとねんどろいどの関係性。
もっとも大事にすることは、“ファンに喜んでもらうため”
「東方Project(以下、東方)」とは、同人サークル「上海アリス幻樂団」が1996年に発表した自主制作のシューティングゲームからその歴史が始まった。幻想郷と呼ばれる架空の世界を舞台にした世界観や、そこに住む魅力的なキャラクターたち、そしてゲーム中に流れる音楽に熱烈な支持が集まり、同人誌や同人ゲーム、また楽曲アレンジCDといった膨大な二次創作を生み出した。現在も「コミックマーケット(以下、コミケ)」や「ワンダーフェスティバル(以下、ワンフェス)」などのイベントにおいて数多くの東方サークルが参加する一方、国内最大級のオンリーイベントである「博麗神社例大祭」が毎年開催されるなど、コンテンツが生まれて20年が経過した現在も若い世代のファンも増え続けるという、ポップカルチャーの歴史から見ても稀有なコンテンツとなっている。
そんな東方とグッスマがコラボレーションを果たしたのは、2009年8月に販売された『ねんどろいど 博麗霊夢』が最初のことだった。初めて東方のねんどろいど制作に携わった秋山拓郎(事業本部 企画部 取締役)は、当時のことをこう語る。
「今でこそねんどろいどは1400種類以上ありますが、いちばん最初に出た『ねんどろいど 博麗霊夢』は、通し番号でいうと74番になります。グッスマがねんどろいどを始めてまだ4年目に入った頃ですよね。グッスマは今でこそ年間に二百数十体というねんどろいどを世に出しているんですけど、当時はまだフィギュアの量産体制がまったく整っていなくて、1年間に二十数体しか作れなかったですし、当然ねんどろいど自体の知名度もそれほどなかったんですよ。そんななか、ぜひ東方Projectでねんどろいどを販売したいと版元さんに持ちかけたのが、2008年頃でした。
当時から東方というのは圧倒的な人気で、商業ではない同人作品なのにオンリーイベントが開催されるぐらいファンベースが強固だったんですね。僕らがコミケやワンフェスに出展すると、必ずと言っていいほど東方の二次創作やコスプレを見かけたし、そうした数多くの創作活動が行われているファンベースに、僕らのねんどろいどを見てもらいたかったというのがありました」(秋山拓郎)
ねんどろいど 博麗霊夢
当時グッスマが発売してきたねんどろいどは、ゲームやアニメといった作品のキャラクターが多くを占めていた。そのなかで同人作品である東方のフィギュア化というのは異色であり、また二次創作物によって拡大化した東方のフィギュアを商業で出すというのもまた異例なことであった。
「今回のケースが異例だというのは僕らのなかにもあって、最初は商業でフィギュアを出すだなんて、許諾は取れないだろうって思っていたんですよ。だから断られたらしょうがないな、というのはありました。ただ、当時の僕らもそんなにメジャーな会社じゃなかったし、ワンフェスでも頑張って自分たちで手売りしていたんですよ。だからそこはあまり商売の臭いのしない、ちょうどいい感じのマイナー感が出ていたんじゃないかなって思います(笑)。
もちろんそこには”大手流通での販売はしない”など、いろんな条件のお話し合いをしました。だからいちばん最初は海外でも販売していないし、それもお付き合いを続けていくなかで、どこかのタイミングで海外販売の許諾をいただいたわけです」
そうしたなかでグッスマにとって初となる東方のフィギュア『ねんどろいど 博麗霊夢』が発売になった。その反響は予想以上に大きく、以降も『ねんどろいど 霧雨魔理沙』など東方のねんどろいどは現在までおよそ20種類を数えるに至った。
ねんどろいど 霧雨魔理沙
「ファンのコミュニティのなかでもかなり反響はありましたし、一方でキャラクターそれぞれにファンがついていますから、いろいろな声を耳にしました。東方のフィギュア化というのは普通の作品と違って、版元さんからの公式な資料がありませんので、ファンのコミュニティがどのようにキャラクターを作っていったのかというのも同時に調べていかないといけないんです」
一般的にフィギュアの制作において版元の監修というものにいくつか行程がある。まず表情や付属パーツまで含めた仕様書で版元とやりとりをしたのち、実際に色がない彫刻である原型を制作して形状の確認をする。そののちに彩色をしたものを確認し、最終的に版元の許可が出てから量産に入る……といったものである。東方とのやり取りについて「フィギュアに関してはありがたいことに一定の信頼をいただいていて、厳しいと思ったことはない」という。しかし秋山は間を置かず「それよりも」と続けた。
「それよりも、ファンの方々からどう見られるのかを気にして丁寧に作っているという感じですね。そこは同人であり二次創作であるので、”公式がOKを出したから”というのは印籠にならないわけですよ。二次創作だから”いろいろあってみんないい”という考えではありますけど、僕らとしてはファンに喜ばれるためにどうバランスを取っていくか? というのを常に考えています。東方だったらひとりのキャラクターでも無限と言っていいほど絵のバリエーションがある。そのいろんなパターンから、どのニュアンスをどう採り入れるのがいいのかをしっかり考えています。そこは東方の大ファンが社内にもいるので、彼らを通してユーザーのコミュニティで今どんなものがどう話題に上がっているのかというのは、いいもの悪いものも含めてしっかりチェックしています」
ファンの目線を大切にするというスタンスを絶えず持ち続けることで、東方とおよそ10年以上の長きに渡るタッグを続けてきたねんどろいど。東方というコンテンツがねんどろいどにもたらした影響を、秋山はこう語った。
「ひとつの作品からこれだけ多種多様なフィギュアを、10年以上の間で出せたというのはねんどろいどの歴史でも極めて珍しいケースです。またねんどろいどには通し番号がありますが、キリ番号(きりの良い数字)を大事にしていて、毎回何か意味のあるものにしているんです。そういう思いもあって、2017年に700番目のねんどろいどとして『博麗霊夢2.0』を作り直しました。そうやってキリ番にするぐらい東方は僕らのなかでは思い入れが強いし、ねんどろいどの認知を広げてくれたコンテンツだと思っています」
ねんどろいど 博麗霊夢2.0
東方Project×グッスマの新たな挑戦。
スマホゲーム「東方LostWord」から見た可能性とはーー。
東方においてはねんどろいどといったフィギュアのイメージが強いグッスマ。そんなグッスマが2020年に、スマホゲームという新たなプラットフォームの中で東方の二次創作をスタートした。このプロジェクトが生まれた経緯を、岩佐厳太郎(COO/経営企画室取締役)はこう語る。
「『東方LostWord』の前にグッスマとしては『グランドサマナーズ』というスマホゲームを発表しました。そこで我々もゲーム運営というものを初めてやってみつつ現在も続いているんですが、1、2年ほどやってノウハウを蓄積したところで、もう一作やってみたいとなったんです。
そこで企画から考えたわけですが、せっかく我々もいろんなIPに携わっていますし、オリジナル作品だった『グランドサマナーズ』に対して、今度はIPものでやりたいなと。そこから東方Projectのゲームを作れないかという話が出てきたので、問い合わせをしたところOKをいただけました。なので、すごくいいタイミングで企画を出せたんですね」(岩佐厳太郎)
こうして東方の二次創作スマホゲーム『東方LostWord』のプロジェクトがスタートすることとなった。スマートフォンアプリというプラットフォームにおいても、フィギュアと同様にグッスマが考えるスタンスというものは一貫している。
「あくまで二次創作なんですけど、ユーザーのみなさんが、東方とはこういうものだというイメージは決して壊してはいけない。そのうえで我々はゲームの運営としての作品解釈をしていくという、壊さないで解釈をしてみんなに好かれるようにする、というのは難しいんですけど、いちばん気を使っています。
加えて、ゲームのコンセプトとしてはキャラクターに愛着を持ってもらうことが第一なので、イラストにも気を使いました。色がつきすぎるのもよくないというか、イラストに特徴が立ち過ぎていてもダメですし、それによって逆にかわいくなくなったら当然いけないですよね。そこのバランスは非常に重要だと思っています」
舞台となる幻想郷に訪れた記憶のない主人公が、おなじみの登場人物とともに幻想郷を探索していくというストーリーである『東方LostWord』。また賽銭などを使用して仲間を増やし、絵札を装備して独自のパーティーを組んでいく楽しさもある一方で、キャラクターの属性やショットの種類などで戦闘をスムーズに進められるかなど、シンプルなRPGのなかにも歯応えのあるシステムもまた魅力だ。そうした幅広い層にリーチするバランス作りもまた、本作がめざすところである。
「ゲームの作り方でいうと、レベル上げなどいわゆる同じ作業を何回もやったりしてしんどい部分ってあるじゃないですか。そのしんどいところを残しつつも、あまりユーザーさんにハードな仕様にしないというか、ビギナーでもしっかり遊べるというのは運営としても気をつけているところでもあります。やり込み要素は残しておかないとゲームとしては面白くなくなってしまうんですけど、キャラクターが好きでストーリーを楽しみたいという人にも簡単に入れるような敷居の低さにしていますね。
あとはキャラクターボイスが3種類入っているというのも新しい試みになっています。普通ボイスって1種類のみなんですけど、それもユーザーさんに”この子はこういう声だろう”とイメージする声を選んでもらいたかったというところがあって。そこもユーザーさんに受け入れてもらえているところなのかなと」
東方LostWord ゲーム画面
そうしたゲームにおいて、また東方二次創作におけるバランスを注視しながら作られた『東方LostWord』。ローンチからまだ3ヶ月という段階だが、「ユーザーさんから高評価をいただいている」という。
「最近のスマートフォンゲームは作りがリッチになっていく傾向があるなか、『東方LostWord』は非常にシンプルに作っています。東方のファンの方が二次創作的なものに慣れていますが、そうしたファンの方々がいる作品で自分たちの作ったゲームが受け入れられたというのは幸運でもあり、非常にうれしいですね」
フィギュアとゲームの、海外も含めたさらなる市場拡大。
東方とのタッグで生まれるグッスマの未来とはーー。
東方とグッスマによるタッグからねんどろいどが生まれて10年以上が経ち、そして今年には『東方LostWord』という二次創作ゲームがあらたに誕生した。長きにわたる東方とのパートナーシップのなかで、グッスマはどんな未来を描こうとしているのか。
「スマホゲームのいいところは、まず無料ですし、スマホさえ持っていればいろんな年齢層の人たちが遊べるところだと思っています。例えばそこで東方を知らない人が『LostWord』から入って東方を好きなってくれたら、そうやってコンテンツの盛り上げに貢献できればうれしいなと思います。
あともうひとつ、日本から世界中に簡単に届けられるというところもスマホゲームの利点ですよね。『東方LostWord』の今後の展開としては海外でもリリースしようとしています。東方を愛している海外の方に同じものを届けることと、また東方を知らない人にも届けること、その両方をやっていきたいですね。そうすれば我々としてもコンテンツへの恩返しのようなものができるんじゃないかなと思います」(岩佐)
岩佐がゲームとしての海外展開も含めた野望を語る一方、秋山も「『東方LostWord』の波に乗ってフィギュアを盛り上げたい」と語る。そのひとつとして期待されるのが、グッスマ初となる東方のスケールフィギュアだ。
「東方のスケールフィギュアというのは、僕らは過去に販売取扱だけしたことはあるんですけど、僕ら自身がスケールフィギュアを作ったことはないんですよ。ねんどろいどもたくさんやってきましたけど、グッスマの代名詞ともいえる精細なスケールフィギュアというのはまだやったことがなかったんです。東方が今なお新しい世代のファンを採り入れながら拡大していくなかで、今の技術を全部注ぎ込んだスケールフィギュアをファンに届けたいという思いはずっとありました。
個人的にも、東方はいろんなことに寛容なことでファンベースをすごく大事にしてきたと思っています。グッスマ自身もファンと向き合いながら大きくなってきた会社なので、そこは先達としてすごくリスペクトがありますね。そういった意味では今後も、今回のスケールフィギュアをきっかけにまた東方のフィギュアをたくさん作っていきたいですし、海外も含めて東方の魅力を届けるというお手伝いができればいいと思いますね」(秋山)
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1/8スケールフィギュア 博麗霊夢
博麗神社の巫女さん
東方Projectの二次創作RPG『東方LostWord』より博麗神社の巫女さん「博麗霊夢」が1/8スケールで立体化!同作のビジュアルイラストを担当するイラストレーター・夢野ろて氏により、フィギュア用に特別に表情を描き下ろしたイラストをもとにスケールフィギュア化いたしました。作中のイラストイメージをそのままにカラフルなエフェクトもクリアパーツを使って豪華に再現いたしました。風になびいたような服やスカートの流れにもこだわって造形しています。精悍な顔つきながら少女らしい可愛らしさのある霊夢を是非お手元にお迎えください。
©上海アリス幻樂団
©GOOD SMILE COMPANY, INC. / NextNinja Co., Ltd.