連載企画
LET’S DISCOVER THE SECRET OF A GOOD SMILE!

ー笑顔のヒミツを解き明かそう!ー

 グッドスマイルカンパニー(以下グッスマ)は、日々あらたな才能を求めている。
MAX FACTORYと共同で開催する、原型師(注1)とフィニッシャー(注2)を募集するオリジナル採用制度「トライアウト」の季節が今年もやってきた。この10年間で多くの原型師とフィニッシャーがこの「トライアウト」から採用され、グッスマで制作スタッフとして活躍している。今回はそんなトライアウトの募集がスタートしたこのタイミングで、過去のトライアウト出身者にその応募までの経緯を聞くとともに、審査の詳細からグッスマおよび現在のフィギュアシーンに求められている人材などを聞いた。本気でフィギュア制作を仕事にしたい人はもちろん必見だが、同時にグッスマのスタッフが秘めたフィギュアへの熱い想いも感じ取ってほしい。

アマチュアからプロの制作職へ。
若い才能たちがトライアウトの門を叩いたきっかけとは

 グッスマがMAX FACTORYとともに立ち上げたトライアウト制度は2010年に第1回が実施され、今年で10周年を迎える。その立ち上げに携わった、ねんどろいどのディレクターや制作進行を担当する高野明史は、トライアウト開催の経緯をこう語る。

「10年前にトライアウトが始まる前に、MAX FACTORYと弊社の制作部が主導になって、有志を募ってフィギュアの塾みたいのを小規模ですがやっていたんですよ。それはあまりうまくいかなかったんですけど、その後もうちょっと現実的な方法で見込みのある若者や、やる気のある人材を募って大々的にやっていこうというのがトライアウト立ち上げの経緯です。10年前というと弊社もどんどん商品を増やしていこうとなっていた時期で、でもそれには原型師やフィニッシャーの数が足りなかったんですよね。それもあって社内の原型師を増やすために人を集めようというのが始まりです」(高野)

 そうしたなかでまず実施されたのが、原型師のトライアウト。アマチュアで活躍するフィギュア製作者に向けてトライアウトの要項が公布され、数多くのアマチュアディーラーが参加した。2012年入社した佐々木界、2015年入社の市橋卓也の両名も、トライアウト出身の原型師だ。

「前職は全然違う業種だったんですけど、フィギュア作りは趣味で2、3年ぐらいやっていて、”ワンダーフェスティバル”(注3)にアマチュアディーラー(注4)として参加していました。そこで何年かやっていたときに、そこの参加ディーラーにトライアウトの応募広告が配られて、それをきっかけにそのときにワンフェスに出展していたフィギュアでそのまま応募しました」(市橋)

「僕は映画の専門学校で特殊メイクの勉強をしていたんですけど、そこの先生でほかの学校ではフィギュア造形を教えている方がいて、それをきっかけに自分で作り始めました。卒業後は映画の仕事をしていたんですけど、メイクの仕事で現場に出るよりひとりで作っていたいと思うようになって、ワンフェスに出るうちにトライアウトを知って応募しました。僕は最初一次選考で落ちていまして、それで気合を入れ直して次の年にようやく受かったという感じです」(佐々木)

  • 佐々木界 2011年スカルプターズトライアウト応募作品
    「キャラクター・ボーカル・シリーズ02 鏡音リン・レン」鏡音リン

 そして原型師の募集の翌年、2011年にはフィニッシャーズトライアウトの募集も開始され、2012年入社の野口裕介、昨年入社の吉野展弘がトライアウトの門を叩いた。

「僕はもともとプラモが好きで、大学でも模型研に所属していました。卒業間近にワンフェスに行くようになって、それをきっかけにガレージキット(注5)や美少女フィギュアを趣味で作り始めるようになりました。卒業後にはフィギュアや模型業界で仕事がしたいなと思うようになったときにフィニッシャーズトライアウトの存在を聞いて、第1回のフィニッシャーズトライアウトを受けて入社しました。なので第1期生になりますね」(野口)

「私も小さい頃からプラモデルが好きで、車や飛行機、戦車をずっと作っていました。19歳の頃にワンフェスでガレージキットの存在を知って、同じ色を塗るにもプラモデルの表現とはまた違うなと思って、6、7年ずっとひとりでフィギュアを買っては塗装してという時期を過ごしました。プロになって自分の技術を高めたい、模型全体をよくしていきたいという想いがあって、調べていくとフィニッシャーズトライアウトに行きついて、応募しようと思ったわけです」(吉野)

  • 吉野展弘 2018年フィニッシャーズトライアウト応募作品
    「グリザイア ファントムトリガー」深見玲奈
    原型制作:じゅんぼう(prestage)

チームでの制作だからこそ生まれる、
「グッスマらしさ」というハイクォリティー

 さて、フィギュアの制作過程のなかでそれぞれ重要な役割を占める原型師とフィニッシャー。グッスマではそれぞれどのような仕事をしているのだろうか。

「基本的には企画部がこんなフィギュアを作りたいという企画を立案して、そこから我々制作部のほうに原型制作の依頼が来ます。まずそれを僕らディレクターが受けて、社内で作るか外注の原型師さんにお願いするかを決めます。そこから実際に作り始めて、企画担当とディレクター、原型師、製造のスタッフも入って原型を進めていくという感じですね。原型制作自体は基本ひとりでやるんですが、今はデータで原型を進めていくことも多いので、分業になることもあります」(高野)

「原型の分業というのは、例えばフィギュアの基本構成みたいなものを自分が全部作って『こういう構造にしよう』というのを決めたあとに、あまりに作業量が多くて自分だけでは回らないぞと思ったら、メカや武器の部分だけほかの原型師にお願いして、最後にそのデータを合わせて完成、ということがあります。データではなく手作業のアナログで作る場合でも、美少女フィギュアの場合は女の子の部分をアナログで作って、持っている武器などはデータで作ることはありますね」(佐々木)

「今の業界的にはデータが主流になっていますね。ねんどろいどではほとんどデータで制作しています」(市橋)

「入社したてで経験の浅いスタッフは、経験を積むためにアナログ原型で作らせることはあります。例えば入社前からゲームのCGを作っていた人もいたり、フィギュアを作るために独学で勉強している人もいますね。しかし結局データで造形しても出来上がった現物はアナログになるわけで、最後の調整は直接手で触らなくてはならない。その経験を積むためにも手原型からやる方法もしっかり身に付けてもらいます」(高野)

 そうした原型制作が早くて3〜4ヵ月、大作スケールフィギュアとなると1年ほど時間を要するという。制作開始からユーザーの手に届くまでの時間を短くしたい思いはあるが、一方で「クォリティーこそグッスマらしさ」と高野が語るように、やはりクォリティーの高い商品を作るまでは時間がかかるようだ。そうして原型がフィックスしたあとは、フィニッシャーの出番となる。

「原型がフィックスしたら、それを複製して塗装できる状態のものーーキャストを作ります。キャストが出来てからが我々の仕事になります。塗装はひとりでやることもあれば、社内で塗装メンバーとフィギュアの命である顔の面相を描くメンバーを同時並行を進めることも最近は多いですね。どうしても原型より納期が短くて、スケールフィギュアだと2週間から3週間で監修に通さなくてはならないこともあるので、分業の機会が多い。」(野口)

「それこそ『Fate』15周年の3体(間桐 桜、セイバー、遠坂 凛〜15th Celebration Dress Ver.〜)は分業でやりましたね。12月に始めて年内に終わっていたので、3体をその期間で塗るというのはペースとしては相当早いものになりました」(吉野)

「あの3体は『Fate』15周年というのもあり、ワンフェスや”TYPE MOON展”のタイミングで予約を開始したいというのもあって、そこまでに監修から最終調整までを終わらせた状態で出さなくてならないというプレッシャーが強かったです。彩色の作業の中でもいちばんプレッシャーなのが”顔”ですね。面相というのはフィギュアでいちばん重視するところで、顔がかわいくないとそれだけで商品としてダメになってしまう。まずメーカーでやっている以上は原作のキャラクターに似せることがまず大事で、そこから更に可愛らしさを追加していく。例えばめちゃめちゃかわいいけど似てないのは、GSCでは認められません。商品としてのフィギュアは、ひと目でそのキャラクターとわかるようにするのが求められていると思います」(野口)

  • セイバー 遠坂凛 間桐桜 ~15th Celebration Dress Ver.

トライアウトで求められるマインドと、
チームでフィギュアを作るメリットとは

 原型師やフィニッシャーによる技術によって生まれるハイクォリティーなフィギュアたち。それをユーザーに喜んでもらうために届けようとするグッスマが、「トライアウトで求める人材」とは何か。まず現在募集が始まっている、作品画像の審査となる一次審査で求められる”作品”について聞いてみた。

「トライアウトの一次審査は、作品の写真やデータ原型の画像で審査します。そこで見るのは造形の出来の良し悪しでもあるんですけど、それプラス写真の撮り方など自分の作ったものに対してしっかりアピールしたいという意志が写真に納められているか。そこがいちばん大事かなと思います」(高野)

「最初は画像で送られてくるので、パッと見たときのボディバランスとか、人体として不自然さがないもののほうが、細かいディティールよりも目がいくんですよね。それこそ一次選考となるとたくさんの応募作品を見るので、そこでいちばん引っかかりやすいところとして、人体構成やポーズの良し悪しが優先されるのかなって思います。特に最近ですと3Dデータで作る原型が多いので、鎧など情報量の多いものもデータならいくらでも緻密に作ることができるんですね。個人個人の力量が出やすいのは人体構造やボディバランスなんだと思います」(市橋)

「フィニッシャーズトライアウトで重視するのは”再現性”ですね。審査で持ってきてもらうものはアニメなどのフィギュアが多いんですけど、もとのキャラクターと比べて再現度がどれだけあるか、あるいは”再現しようとしているのか”と言うのが大事です。趣味のフィギュアは主観で塗っちゃうことも多くて、趣味でやっているぶんにはいいんですが、メーカーでの仕事は版元さんからキャラクターをお借りして許諾をもらって世に出しているものなんですよね。なのでその再現性のない、元のキャラクターと違うじゃないかとなるのはよろしくないですね。入社したら商品を作ってもらうので、応募の段階でその意識がないと商品にならないんじゃないかなと」(野口)

野口裕介 2011年フィニッシャーズトライアウト応募作品
「Long Long Original Figure Series 05 キルタ」原型制作:小林真(Long Long)
※「Long Long Original Figure Series」は小林氏のオリジナルキャラクター

 そうした一次審査の段階で残念ながら落選ということもあるが、その一方でトライアウトではただ落選を通知するだけではなく、その次に繋がるようなアドバイスを必ずつけているという。

「応募された作品には何かしらアドバイスを一言添えて、またよろしかったら次も応募してくださいとお返しますね。二次選考ではもうちょっと具体的なコメントを作って、原型師・フィニッシャーともに、審査するスタッフが修正・コメントを作成してそれに合わせて修正してもらったり……とやりながら選考していきます。ただ単に『応募しましたダメでした』ではなく、また次も応募してほしいですし、一次審査の段階ではお互いに相手は見えないんですけどコミュニケーションをとるようにしていますね。そこから佐々木のように『去年も応募しました』という人もいらっしゃいますし、初期の頃は毎回毎回応募してくださる『俺の作ったものを見てほしい』というアピールの場にもなっていました」(高野)

 厳しい審査を通過して、見事グッスマに入社することになったトライアウト参加陣。ちなみにグッスマに入ってよかったことは、会社に入るメリットはどう考えているのだろうか。

「フィギュア作りって、家でひとりで作っていると煮詰まっちゃうんですよ。そういうときに人と会話したいなと思うことが多くて、それが会社にいると気軽に人と会話できるし、『今作っている原型どう思う?』って聞ける。そこは大人数でやっている良さなのかなって思いますね」(佐々木)

「行き詰まったとき、人の意見はメンタル的にもだいぶ助けになりますね。いろんな人の視点や解釈があると方法もそれだけあるので、ひとりでやっていて行き詰まったときの今後の自分を引き出す経験値にもなります。僕がアマチュアからメーカーに入ろうと思ったきっかけが、ひとりでやっていても技術の向上に限界があるだろうと思ったことなんですよね。企業ブースで飾っているようなクォリティー、そういうメーカーの技術を学びたいと思ったのがトライアウトに応募したきっかけでした。そういう意味ではメーカーに入るメリットというのは、第一線の技術が自分の身につくチャンスと捉えられます」(市橋)

「模型などをやっていると行き詰まることはあるし、より上のステップに行くには個人だと限界があるというのは塗装でも同じです。塗装に関してはプラモデルもそうですが、資料から雰囲気を読み取る力が必要になるんですけど、グッスマではいろんな考えを持っている人たちと話せるし、技術交換ができるんですよね。原型師もフィニッシャーも同じ立場で同じ悩みを分かち合える場所に、本気で言い合える仲間がいるのは大きいんじゃないかなと」(吉野)

「グッスマの制作部としては作れる技術や熱意に加えて、みんなと一緒にやっていける、コミュニケーションをしっかり取れる人たちというのを求めていますね。最終的な面接になったときに実際にその人とお話しして、僕たちと一緒に気持ちよく仕事ができそうかな?というのをまず考えます。お互いに遠慮することなく言いたいことを言い合えたり、いろいろ提案してもらったり、コミュニケーション力というものをグッスマには求めるものかなと」(高野)

 最後に、フィギュアを仕事にしたくて、今からトライアウトの門を叩こうとしている人たちに向けて、スタッフからひとことアドバイスをもらった。

「フィギュア制作や、原型師として仕事をしたいという意気込みをお持ちの方は、応募することに怖がらないで、勇気を出して送ってみてほしいです。やっぱり自分の作品を人に見せることだけでも勇気のいることだと思うので、『大丈夫だよ』と」(市橋)

「怖がらないでというのは本当にその通りだと思います。自分ひとりで作っていて、『こんなのどうせ企業レベルじゃないから』っていう気持ちもあるかもしれないですけど、作品というのは誰かに見てもらって初めて意味があるものになるのかなと思っています。一度人に見せてみるぐらいの気持ちで応募してくれればいいのかなって思いますね」(佐々木)

「まずはフィニッシャーでご飯が食えるぞというのを言っておきたいです。そもそもフィニッシャーという仕事があまり認知されていない印象もありますが、フィギュアの第一印象を決めるすごく大事な仕事だと思っています。あと僕もそうだったんですけど、フィギュアの経験が少ないモデラー出身者がこの会社に入っても、周りの先輩に教わりながらちゃんと仕事を学ぶことができるし、そういう環境も整っているので、迷っている人やちょっとでも興味がある人は応募してきてください。ちゃんと一人前になるまで育てますよ」(野口)

「趣味から入ってくる人や好きで業界に入ってみようという人たちが多いですが、好きなことを仕事にするのは想像以上に大変なんですよね。好きだからこそ一歩間違えると嫌になっちゃうこともあります。でもいい原型を作ってくれたからそれにいい塗りで応えなきゃって思うこともありますし、みんながいるからこそ乗り越えられることはいっぱいあります。トライアウトに関しても自分の作品のどこがいいか悪いかみんなで見てもらうことで気づくことはいっぱいありますし、そこに気づいて一歩一歩前に進んでほしい。1がいきなり100になるわけではないので、まずは応募して、業界の扉を叩いて一歩を踏み出してほしいと思います」(吉野)

「フィニッシャーに関しては毎年応募数が少ないのですが、これからは原型師以上に求められる存在になると思います。原型がデジタル化したことで原型を作りやすくなりましたが、色を塗る工程は決してデジタル化できないんですよね。だからフィギュアを作るうえでは必ず必要な存在だし、それがなくなるとフィギュアが発売できなくなる。だからちょっとでも彩色する工程に関わりたいという人がいれば、ぜひ応募してほしいですね。うちの制作部もここ10年近くで人を育てるスキルが積み上がってきたので、原型も彩色も会社で基礎からコツコツ頑張っていれば自分が作ってみたいものを手掛けるチャンスは必ずあるので、ぜひ遠慮なく応募していただきたいなと思います」(高野)

トライアウト出身者 代表作品

  • 市橋卓也 勝生勇利&ヴィクトル・ニキフォロフ Premium Box(原型制作)

  • 佐々木界 後輩ちゃん(原型制作)

  • 野口裕介 ヒカリ(彩色担当)

  • 吉野展弘 夜刀神十香(彩色担当)

  • 高野明史 ねんどろいど アイアンマン マーク45 ヒーローズ・エディション(制作ディレクション)

【注釈】

注1 フィギュア原型師
アニメやゲームキャラクターのフィギュアや玩具に始まり、模型、工業製品などの試作品やプロトタイプ、または量産化するための原型を制作する職業。

注2 フィニッシャー
原型をシリコン型で複製したものを塗装した、完成品フィギュアの商品見本/(工場での)生産見本となるデコレーションマスター(彩色見本)を制作する職業。

注3 ワンダーフェスティバル
造形メーカー海洋堂が主催する、世界最大の造形・フィギュアのイベント。

注4 アマチュアディーラー
同人活動の「サークル」とほぼ同義語。個人で制作したガレージキット、ドール、一品限りの造形物などを模型イベントで発表・販売する参加者。

注5 ガレージキット
レジンキャストなどで少数生産される組み立て式の模型。完成品フィギュアと異なり、組み立てから塗装までを自身で行う必要がある。

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