連載企画
LET’S DISCOVER THE SECRET OF A GOOD SMILE!

ー笑顔のヒミツを解き明かそう!ー

 グッドスマイルカンパニー(以下グッスマ)20年の歴史を、そのスタッフの証言とともに紹介する本連載。最終回は株式会社グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の安藝貴範に前後編で話をきいた。前編ではグッスマのフィギュアの作り方からスタッフの育成法などについて安藝の視点でたっぷり語ってもらったが、この後編ではレースやアニメ、ゲームといった”フィギュア以外のグッスマ”についても話を聞いた。フィギュアメーカーがなぜこうも多岐にわたる事業を展開するに至ったのか。フィギュアも含めてすべての底に流れるグッスマと安藝の理念というものに迫った。

ユーザーと喜びを分かち合うために、
新事業でも続けられるマーケットの拡張

 フィギュアメーカーとして「ねんどろいど」をはじめ数々のヒット商品をリリースしてきたグッスマ。その一方で、フィギュアとはまた別のエンタメ事業に足を延ばす機会が生まれてくる。それは会社を設立して10年経とうかという頃のことだった。

「僕は比較的マーケット視点というか、この日本のオタクマーケットやサブカルマーケットにフィギュアおよびその周辺の産業をいかにセットしていくか、というのが当初10年ぐらいのトライだったんですね。でもその頃からそこから外れた、ピボット(方向転換)したようなオファーが多かった。アニメ会社を一緒に作ってくれとか、ゲームを作るとか、今それはまた違うフェーズであらたなトライとしてありますね」

 フィギュア以外のオファー。そこもまた前編で語られた、スタッフの企画は基本走らせるというスタンス同様に「基本受け続けます。そのままだと厳しいよっていうのはアレンジしますけど、実現可能なものはやる」と語る安藝。そのなかにはレーシングチームの運営、「グッドスマイルレーシング」というものがある。2009年にはメインスポンサーに就任したのち、2010年からはチームオーナーとしてSUPER GTに参加。初音ミクのイラストがあしらわれたレーシングカーは今や名物となっている。

  • 初音ミクGTプロジェクトは、2021年7月のSUPER GT 2021第4戦で100戦目を迎えた。

「当初は頼まれごとから始まったんですけど、途中から我々の事業になった。始めたあとにファンが残ったのであれば、それはやり続けようと。レースの世界もマニアックですけど我々の普段のお客さんもオタク気質なので、興味のあるものに真摯に向き合う傾向があるんですよね。なのでレースをやっていてしばらくして起こった現象として、ミクのファンだった人がみるみるレースに詳しくなっていくんですよ。その学ぶ速度がすごくて、楽しみ方も僕らが提供するもの以上に発展していくんですね。そんななかで勝ったりすれば、喜んでいる僕たちのうしろでファンが泣いているんです。そこにつられてぼくらも感動して泣いちゃったり」

 フィギュアを介して喜びを分かち合っていたグッスマとユーザーが、今度はレースという勝負の世界で一喜一憂しながら勝利を分かち合う。これもまた安藝が考える「みんながハッピーでいられるためのマーケット」であり、マーケット拡張のひとつでもある。そしてグッスマが拡張をもたらした結果、レーシングシーンにも変化が訪れたという。

「僕らが参戦する前のレースマーケティングって閉鎖的で、それを僕らがあらゆる情報をオープンにして、いくぶんかこじ開けた気がします。例えばレースで18位と19位の争いってテレビじゃ映らないじゃないですか。僕らは出た当初はめちゃくちゃ弱かったから18位か19位かってすごく大事で、そういうのをずっと中継していたんですよ。ほかにもどういう原因でリタイアしたのか何も隠さない、情報の提供力は日本でいちばん多いレーシングチームだったんです。そこからだんだんチーム力を増し、最終的にはチャンピオンになるんですよ。今はそういった情報提供はどのチームやっているし、そのきっかけになったのかなって。そうしてサーキットにもお客さんが増えたんですよね」

  • GOODSMILE RACING & TeamUKYO グッドスマイル 初音ミク AMG

 新しい分野においてもそこでの課題をあぶり出して解消していく。その変わらない方針がレース業界にも活気をもたらした。これが繰り返し安藝の口から語られる”マーケットを拡張する”ということである。

「マーケットを拡張するというのは幸せの根本なんですよね。広がっているもののなかで努力をすれば幸せになる。僕らが一緒にお仕事している人たちって素直な人たちばかりなんですね。そのなかで食べていけるようになって、高度に成長していけるようになれば、そこからあらたな思想も生まれるし新しいことを始める人たちも生まれてくる。そのためには、マーケットは拡張し続けていかなくてはならない」

個性を尊重して長く見守るという姿勢が、
アニメスタジオにもたらした影響とは?

 そのほかにもグッスマはさまざまな事業に取り組んでいる。なかでも有名なのが、アニメ制作スタジオのサンジゲン、トリガー、ライデンフィルム、ギャラクシーグラフィックスから成る持株会社・ウルトラスーパーピクチャーズ(以下USP)である。2D/3Dアニメと現在のアニメシーンで数々のヒット作を排出するアニメスタジオの出資者としてのグッスマは、このUSPをどう見ているのか。

「USPに関しては、僕らは方向性を一緒に考えたりとか、効率が悪くならないように協力したり、多岐にわたってやっているんですけど、制作であったりチーム構成や組織のビルドアップなどについては何も手を加えていなくて、基本自由にやってもらっています。複数のアニメ会社がひとつのホールディングのなかにあることで、当初はもっと協業できるかなって思ったんですけど、みんな我が道をいくというか。それぞれのカルチャーのなかにいるので、無理やりひとつの作品を作らせようとすると反発するんですね。なのでスタジオはスタジオでそれぞれの個性を保っています。その方針のほうが僕も好きだし、意思決定が大きくないほうが個性的なものが生まれると思うので」

 個性豊かなアニメスタジオの成長を見守ることによって、各スタジオの個性がより際立ち、現在のアニメ業界になくてはならない技術を誇るまでに至った。これは離合集散の多い現在のアニメスタジオのなかで、ホールディングという形態によってもたらされた10 年の結果でもある。

「グッドスマイルカンパニーもクリエイティブなチームがちゃんとするまで10年かかったんですよ。アニメスタジオはプロが集まっているのですぐ稼働できる。でもチームとして屹立するまでやっぱり5年や10年かかるんですね。だから、すぐにうまくいかないものだったら支えるっていう姿勢を僕らは貫くんです。5年10年経って、それぞれが仕上がってくるんですよね、その時間をホールディングとして作れたのはすごくいいことだなって思います。今は、アニメの制作機能のなかでいいアウトプットをするスタジオとして各々存在感を示している。それはUSPというチームがあって成立したんだと思います」

 そして現在、グッスマが推し進めている事業のなかにゲーム制作というものがある。2016年の「グランドサマナーズ」を皮切りに、2020年には東方Projectの二次創作ゲーム「東方LostWord」、2021年にはニトロプラス原作の「咲うアルスノトリア」をそれぞれリリースしている。

「ゲームをやるべきだというのは前からずっと思っていて、ゲーム系との人たちとも交流があって、そのなかでパブリッシングがグッスマではないけどほぼほぼグッスマですよっていうのも過去にはいくつかあったんです。そうこうしているうちになんとなく面子が揃ってきて、この人たちとならうまくいくかなという時期に来たんですよね。それが4、5年前で、そこから『グランドサマナーズ』を作り始めました。失敗もあったんだけど、そこでも頑張って支えて。開発しているところも徐々に有名な会社になってきました」

レーシング、アニメ、ゲームのほかにもさまざまな事業を手がけ、それぞれのマーケットも拡張してきたグッスマ。それぞれトライアルを重ねること、そして同時に長い目で見守るということが大切だと安藝は語る。レースやアニメの事業も設立して10年という時間によって結果がもたらされ、ゲーム事業も同様に安定して作品をリリースできる時期に入っている。この”時間”こそが安藝が大切にしていることなのだという。

  • スマートフォン向けRPG『咲う アルスノトリア』

「エンタメ企業の経営陣で特に大事なことは、現場の人間が安心して過ごせる数年間を作ること。グッスマがこれから5年は潰れないとしたら、そのなかでやるべきことに集中して自分を高めていられる。そういう環境が大事だと僕は思っていて、それを与えられるかどうか、そのなかで自分を高められる仕事をしてもらえるかどうか。一方で、今後この世界で何が当たるかわからない、どんなメディアが元気か、どんなサービスが世の中の中心になっているかわからない状況だとしたら、そこに対して無数のトライをするべきだと思うんですよ。ゲームなのかアニメなのか、AIなのか、あるいは飲食や興行なのか。だからエンターテインメントの世界ではいかにピボットしてトライしておくかが大事なんです。そのなかには失敗もありますけど、うまくいくものを何個か残しておくと、2年後にそれを始めることができるんです。例えば『ゲームを作るぞ』というときに、リソースが出来て仲間もいて、業界にも繋がりがある。あとは予算があればゲームをリリースできる。そういうものをいくつか作り続ける、そうすれば数年後までの安心とその次にトライできる仲間が増えていくんですよね。そういう意味ではゲームも長い期間準備したあとに、今では大勢のスタッフがゲームと向き合って、しっかりした事業になろうとしている」

また、そうした数々の事業展開は、本丸であるホビー事業へとフィードバックされること、あるいはそれぞれの事業が結集する機会というものはあるのだろうか。

「あるといいなと思っているんですけど、それをやるとなるとやっぱり大事なのはIP開発なんですよね。僕たちがどれだけ作品を持てるか。僕らが社内で有しているさまざまなアウトプットは、トップクラスではないけどトップに手がかかる位置にあると思うんですよ。それをいっぺんに動員できるIPを開発する必要があるんですよね。それはもうずっとやっているんだけどなかなか当たらないし、まだリソースが足りないと思う。いざやるとなったときにヒットに耐えられるかどうか。だから成長は大事で、今はそこにおいてまだ高度化できていないのかなって思います」

20周年を経てその先に見える、
”これまで”を活かした”これから”のグッスマ

ここまでグッドスマイルカンパニーのトライアルと拡張の歴史を語ってもらったが、フィギュアメーカーとしてのグッスマの今後をうらなう商品についても聞いてみよう。まずは今年2月に開催された”WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 32”にて発表された、全高10cmほどのポップなフィギュアシリーズ「HELLO! GOOD SMILE」である。

「これは期待しています。僕らのジャンルでいうとアートトイやファッショントイの類なんですけど、こうしたよりカジュアルなフィギュアというのはアジアを中心にマーケットがすでにあるんですよ。そこに我々も参入しましょうと。コヤマシゲトさんというアーティストをアートディレクターにしてこれから一緒に連発していこうと思っています」

続いては”ねんどろいどを "もっと身近に" "もっと手軽に" をコンセプトにしたシリーズ「ねんどろいど Swacchao!」。上半身は従来のねんどろいどと同じ構造だが、下半身部分が「お座り」できるようになっている。既存のねんどろいどを座らせることができる追加パーツも販売し、ユーザーが持つねんどろいどの可能性を拡張させるシリーズとなりそうだ。

  • HELLO! GOOD SMILE 初音ミク

  • ねんどろいど Swacchao! 博麗霊夢

「今はねんどろいどの資産がユーザーの手元にめちゃくちゃあるんですよね。ねんどろいどをたくさん持っている人たちの資産を活かすためには、自分が持っているこれとあれを組み合わせるとこうなるかも、というのを提案し続けなくてはならない。そうしたパーツを価格帯も下げて導入になるようなものを作っていこうと思います」

 新シリーズでシーンを切り拓き、既存の人気シリーズを拡張する。レガシーと革新性を活かした21年目以降のグッスマには見られそうである。そうしたトライアルという言葉はこの先のグッスマにおいて、やはり重要になっていくのだろう。

「『これ絶対売れる』ってやったものって、売れてもうれしいというより、ほっとするのが大きいですね。めっちゃ力入れたものが喜んでもらえないとすごくつらいし、喜んでもらえれば安心。それに対してSwacchao!とかHELLO!とかはアイディアで戦いを挑んでいるわけで、それが当たったらすごくうれしいですよね。そうやって僕らがほじくり返したものが増えていって、だんだんとその残りが少なくなってきているのはあります。だから新しく生まれてくるメディアや、新しいエリアに門戸が開かれている気がする。それこそ今思いついたけど、ブラジル専用フィギュアとかね。『インドでフィギュアを売るならどうすればいいのかな?』とか。そうやって我々が感じたものを世にぶつけてみる、それを繰り返すことでヒット商品が生まれていくんですよね」

最後に、20周年を迎えたグッドスマイルカンパニーから、ユーザーへメッセージを贈ってもらった。

「20年支えていただいたことにはストレートな感謝をしたいですし、改めて振り返るとよく20年も支えてもらったなって感じています。それは僕らが発信するものにその都度興味を示してもらって、おそらく入れ替わりながらもそこにいてくださったということで、我々の支えになっています。みなさんのおかげで日本のホビーや作品が世界中に到達するようなところまできて、今はそれがその場に根づいて、そこでものを作る人が我々の仲間として広がっていく、というのをめざしています。これまで支えてくださった方とこれから出会う人たちも含めて僕たちは仲間だと思いながら日々のトライアルを欠かさないようにしていきますので、気が向いたら注目していただけたらありがたいです。時々見ていただければ、きっと面白いことやっていると思いますので」

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